1.高校卒業まで
私の実家は大阪と京都の境のあたりにあり,京都府の立命館中学高等学校に通っていました. 今はキャンパスが長岡京に移ったそうですが,私が在籍していたころはまだ伏見区深草にあり,伏見稲荷大社の横を通って通学していました. 当時は今ほど観光客が多くなかったので,授業の後で重い鞄を背負って山を登り参拝したことなどを思い出します.当時から数学が好きで勝手に自由研究もどきをしていました. 色々やっていた気がしますが,中学時代に外部に一番ウケたのは「自然界の至る所に黄金比が出現する」という言説の検証でした.本を読み,黄金比になるという色々な長さを測り比を調べてみると どうもその比にはならず,最終的にいくつかの比が黄金比になっていないのではないかという結論となりました.当時は検定など知らなかったので適切な評価ができたとは言い難いものの,実際に色々測ってみると本が言っていることは必ずしも成り立たないということで,研究者を志望した最初の動機になったように思います.
そのあと内部進学した立命館高校ではSSコースに入りました. 話が無駄に長くなってしまうので研究に関連するところだけ抜き出すと,高校で最初にウケたのは長周期の疑似乱数生成器を考えるというものでした.今思えば現代には有名なメルセンヌ・ツイスタなどあるのでやったことの意味は特にないけれど, ある種のパズルゲームとして楽しみながら線形合同法などの古典法を色々と改造して,国内のコンテストで評価されたので,だいたい将来こういう方向に進むのがよさそうと思いました.線形合同法で得られた系列からシードを推定するみたいなことを延々とやっていた時期があり,当時と今でやっていることは大して変わっていませんね…. 当時のコンテスト等で出会った人たちはその後も研究業界に残っていて,特に目立っていた層だと今メリーランド大でHCIの助教をされている西田惇さん, 名古屋大で化学の助教をされている橋谷文貴さんなどがいます.世の中には自由に楽しそうなことを考えている人がいるのだなと感銘を受けたことを覚えています.
2.大学生活(学部)
数学が好きだったものの,数学一本でご飯を食べていけるだけの数学力はないと思っていたので,多少情報系のフレーバーを混ぜればあるいはということで大阪大学基礎工学部情報科学科に入りました.実家が大阪にあるので自転車で通えると思ったらキャンパスを勘違いしていました.だいぶ遠かった. 情報科では基本的に皆さん情報系に進みたがるので,私のように数理系に進学する前提で入学してきた人は珍しかったように思います. 私の知る限り,情報科で強く数理を志望していた同級生はいま筑波大で数学の助教をしている松浦浩平さんくらいで,乗り換えの十三駅あたりからよく一緒に通学して難しい課題を一緒に考えたり輪読をやったりしました.
とはいえ情報系の科目にも興味があったので,(2年時にコース分けされる)数理コースでは本来取る必要のない情報科学実験なども参加していました. フリップフロップがどうとか,FPGAがどうとか面白かったし,デジタル回路の設計に使われる理論などは統計に通じるところもかなりあるのではと思います. PC上のシミュレーターは命令すれば上手く動いてくれるのだけど,電子回路は論理的に正しくても素子が壊れていて動かないとか, 実験の進みが遅くて他の班に素子をすべて取られてしまった結果として特定の素子だけで変則的な回路をくみ上げないといけなかったり, 工学的な要請が入るのでいろいろと理論から外れてきます.また,特に面白く記憶に残っているのは東野輝夫先生が担当されていた記号論理学の授業でした. 今思えば東野先生のご専門とは全く関係のない内容なのだけれど,私の頭の容量を超える複雑な論理をどう取り扱うかというところで,機械的に論理を処理する理論はとても役立っています. また微分方程式の数値計算についての授業もとても面白くて,名和範人先生が(数理コース向けに)とても理論的な側面を話されていたのも面白かったし, 数理コース以外向けに開講されていた,柴山允瑠先生による同名の授業にも 通常範囲外の履修登録として参加させていただいていて,こちらは実際にどう計算をするのかという部分が全面に出ていて面白かったです. なおこの授業では学籍番号ごとに全員の成績が公開されていて,全てのレポートで満点を取っていた唯一の人間が私です. が,一方の統計学,特に低学年配当の記述統計には全く興味がわかず再試を食らって最低評価をもらう有様でした. 数理系の授業で再試や最低評価を食らったのは後にも先にもこの記述統計だけです. 学部の途中まではどちらかというと微分方程式の理論や計算に興味があって,一時期は弱解がどうだのこうだの勉強していました.
阪大の数理は主に統計学・確率過程・微分方程式でそれぞれ2研究室ずつくらいある構成で, 後述する下平研究室を除けば狩野裕先生や 鎌谷研吾先生,内田雅之先生等がおられてとても充実した学習環境だったように思います. 特殊なところだと,いま九大で助教をされている廣瀬雅代さんが博士課程の最中で,私の受けていた授業のTAをされていたりしました. 数理は1学年が20人程度しかいないので,全員が知り合いになってアットホームな雰囲気でした.良い環境だと思います.
3.下平研(前半:阪大)
学部4年生になり,下平英寿先生の研究室に配属希望を出し,無事に配属されました.当時の阪大では直前まで教鞭をとっておられた白旗慎吾先生が定年退官され, 後任として下平先生が東工大から移ってこられたばかりだったので旧・白旗研の学生と旧・下平研(from 東工大)の学生,新たに配属された学生が入り混じって混沌としていました.
阪大の数理は講座制で,下平研究室は教授が下平英寿先生,准教授が田中冬彦先生,助教が廣瀬慧先生でした. 特に廣瀬先生は比較的年齢が近く,とても気さくに話していただけたのでよく雑談をしたし,色々と相談させていただいたりもしました. 下平研は基本的にはなんでも自由に研究をしてよく,東工大から博士課程で移ってこられた永田晴久さんはGPGPUで統計計算をやっていました.先見の明であまりにも研究時期が早すぎた感はあり,まさに今こそ必要な技術という気がしています. ファム・テトンさんは複雑ネットワークの解析をやっておられて,いま滋賀大で准教授をしておられます. 福井一輝さんは画像処理などをやっていて,私の初めての論文は福井さんの主著に混ぜていただいたものです(といっても大きくは貢献できていないのですが...). はるか上までさかのぼれば博士号を取られた先輩にPaul Sheridanさんなど居られるそうですが面識はないので,研究室の先輩と言って頭に浮かぶのはこの3人です. 当時の研究室で大変優秀な後輩としてよく覚えているのは押切孝将さんと羽田哲也さんで,福井さん・押切さん・羽田さん(その他にも研究室におられた小倉さん・前田さん・守山さん)など高専から大学への編入組が研究室の半分くらいを占めていて, 技術系に明るい統計研究室として面白い立ち位置にいたように思います.特に永田さん・ファムさん・福井さん・奥野・押切さん・羽田さんは学年が1つずつ違う中核的なメンバーだったので, 夕方に雑談したりいろいろと楽しかったです.
私自身の卒論はAICの導出で使われるKLダイバージェンスを冪密度ダイバージェンスに置き換えて外れ値にロバストな情報量規準を計算するというもので,統計学会連合大会の紀要がのこっています. 配属時に何をやってもよいよと言われて路頭に迷い,何を思ったかDepthを多次元に拡張しようとすると破局点が1/3になってしまうというとても渋いDonoho and Gasko論文についてゼミ発表して,その関連で冪密度ダイバージェンスの論文をゼミ紹介すると情報量規準の計算を勧められたという経緯だったと思います. 色々あり結局論文化はできなかったのですが,当時勉強したことは今でも役立っていますし,当時最大の問題として認識した冪密度ダイバージェンスの最適化について約10年後に論文を出せたのは感慨深いです. 高専卒の技術系マインドの高い人たちが集まっていたこともあり,下平研全体として統計学分野から徐々に機械学習へと舵が切られていったのもこの頃かと思います. これまでの下平研では皆が完全にバラバラに別のトピックを研究する趣が強かったように思うのですが,特に福井さん・奥野・押切さん・羽田さんは,下平先生の2016年の論文に端を発する, データ中の複雑な関係性を用いて表現学習をするという方向性が揃っていたので,明示的ではないにせよ強い連帯感をもって研究を進めるようになりました.
研究室は技術寄りの人が多かったのですが,私は相変わらず数理統計理論寄りのところにいたので,統計サマーセミナーで知り合いをたくさん作ることができました.特に統数研の藤澤洋徳先生のところで学生をしておられた川島孝行さんとは同学年で同じくロバスト推定をやっていたこともあり,とても仲良くなりました.彼はいま東工大で助教をしています. また藤澤先生のところにはいま東京医大で助教をされている原田和治さんも居られて,原田さんも同級生なので,当時から仲良くやっています.共著論文も一本書きました. 阪大の修士課程で学年が一つ下だった折原隼一郎さんが原田さんと同じく田栗正隆先生のところで助教をされていることもあり,最近は東京医大にもときどき遊びにいっています. また,初めてお会いしたのは統計サマーセミナーだったのかMLSSだったのか判然としないものの,高岸茉莉子さんや岡部格明さんが同志社大学に在籍しておられて,統計関連かつ距離が近いという事情も相まって定期的な飲み会仲間という感じでした.
修士の途中あたりで廣瀬先生が九大に栄転され,その後任として今は広大で准教授をされている伊森晋平先生が助教として着任されました. 修士論文は下平先生の提案されたCross-Domain Matching Correlation Analysis(CDMCA; 対応分析をより一般的にしたもの)をロバスト化するというもので, 今思えば色々とツッコミどころが満載ですが,副次的に多変量解析全般を手広く勉強できたので良かったです.特に主成分分析や相関分析など行列分解を介する多変量解析手法,および正則化周りの計算にとても詳しくなりました(が色んな非線形機械学習手法の台頭でその知識を使ったことは今のところありません…いつか使う日が来るかもしれません).
修士卒業前後での変則的なところだと, 阪大の奨学金に応募してオハイオ州立大学のMikhail Belkin先生のところに遊びに行かせていただいた際に, 米倉頌人さんに 当時オハイオ州立大に留学しておられた日野将志さんをご紹介いただき,オハイオを案内していただきました.CVを拝見するに日野さんはいま東大経済で特任研究員をされているようです.(なお当時の私では全く力が及ばずBelkin先生と研究論文を執筆することができませんでしたが,この滞在で何もできなかったことは今でも強く後悔しています). 同じ奨学金に再度応募してUC Berkeleyに短期滞在させていただいた際,当時スタンフォードでポスドクをしておられた米岡大輔さんのお家にも長くお邪魔しました.ハロウィンを見に行ったり,アメリカを感じる巨大ステーキ肉を焼いて食べたり楽しかったです.部屋で戦国無双を延々とプレイしていたことを思い出します. 米岡さんは総研大の出身で,同じく総研大だった川島さんとの関係で知り合ったと記憶していますが,とても出世されて現在は国立感染症研究所で室長をされているとのことです.気さくで素晴らしい人です.
4.その他の阪大関係者
上述した以外にも,阪大基礎工の数理(およびその周辺)には沢山の統計関係者がいました.当時の下平研の院生室と狩野研の院生室はつながっていて,いま阪大で講師をされている森川耕輔さんや 製薬企業に就職された田辺竜ノ介さんは隣の部屋にいる博士の先輩ということで色々と相談させていただきましたし, いま東海大で講師をされている若野綾子さんは公的統計などを扱っておられる関係か,私が阪大図書館のアルバイトとして受け持っていた相談コーナーによく統計の質問にこられていました. 森川さんよりもう少し上の年代になりますが,寺田吉壱さんは私が学部卒のときちょうど博士号を取られたはずで,私が修士を終えるころくらいに助教として阪大に戻ってこられました.とても実用的な視点から計算機統計を研究しておられて,共同研究をやりましょうという話にもなっています. いま名大で助教をされている宇野光平さんや,いま広大で助教をされている高畠哲也さんは 少し所属が異なるものの阪大で統計をやっている同学年の博士学生だということで,よく一緒にお酒を飲みに行ったりしました. 特に高畠さんは志向が近く,彼は数学をよく勉強していたのでときどき質問に行ったりしました.いまでも広島に遊びに行くとご飯を食べに行ったり,統数研で打ち合わせをすることもあります. (ほとんど入れ替わりのタイミングになりましたが)いま大工大で講師をされている江口翔一さんが阪大のデータサイエンスセンターで特任助教をされていました. 私より少し下の世代だと 仲北祥悟さんや 貝野友祐さんは阪大の内田研におられて,仲北さんは東大の今泉さんのところで特任助教をされているので,今でもセミナーなどで時々お会いします.
5.下平研(後半:京大)
博士課程でも下平研に入り,博士1年目までは阪大に居ましたが,下平先生が急遽京大の情報学研究科に移られることになりました. 必然的に私も移動することになり阪大を中退,再度面接などを受けて京大の博士2年目に転入学をしました.通常は博士1年目からの再入学となるそうですが, 私は学振DC2に内定していたので,博士1年目に戻ってしまうとDC2の内定が取り消されてしまうとのことで,博士2年目への編入の形になりました.
当時の京大では信号処理の研究室の後任として下平研究室が発足することとなり,当時の講座に居られた准教授の林和則先生の学生と 阪大から来た学生が混在する構図となりました.林先生のところで博士課程の学生をしておられた早川諒さんはいま東京農工大で准教授をされていて,中井彩乃さんは名工大で助教をされています. 彼らも指導自体は林先生が受け持たれていたはずですが,居室は同じだったので一緒にゼミや輪読をやっていましたし,色々と教えていただく事も多かったです.特に無線通信関係の話題は私にとってはとても新しく, また圧縮センシングやスパース推定の研究を積極的に進めておられて,(おこがましくも当時はスパース推定があくまでも統計の一分野だと思っていたので)視野を広げるとここまで精力的に研究が進められていて,また統計界隈で知られてすらいない様々な知識がたくさんあるのだと衝撃を受けたことを覚えています.
京大の学生は阪大より情報系に偏っていたので,統計を研究する学生は稀になり,機械学習とくに自然言語処理を志望する学生が増えていきました. 井上雅章さんは京大に入ってから初めての博士課程の後輩で,複雑ネットワークの解析で学位を取り,いま企業で研究者をされています. 学位を取得して東京に移られた際は自宅に招待してお祝いしました. Geewook Kimさんはいま韓国のNAVERで研究チームを率いていて,当時からもはや日本人とほとんど区別できないほどの高い日本語能力・英語能力と高いプログラミング能力,数理的能力は誰がどこから評価しても優秀という感じの学生でした.いま博士号を取るためにKAISTの博士課程に入られたそうです. Kimさんと同学年のアカデミック関係者だと,お隣の田中利幸先生の研究室で学位を取られた山崎遼也さんはいま一橋大で講師をされています. 最近でもときどきお会いしてお話をすることがありますが,とても硬派な研究をしておられます.
私自身はなかなか論文が採択されなかったのですが,D3に入るあたりでようやくICMLに1本論文が通り,そこから立て続けにAISTATSに2本,IJCAI,NeurIPSなどに論文が通りました. 当時は国際会議論文では学位取得が難しいシステムだったので,結局Neural Networksに一本論文が通るまで1年半延長しないと卒業できなかったものの, 結果として非常にたくさんの経験が出来たので良かったです. 下平先生はとてもたくさんのアイデアを持たれている方で,型にはまらない発想で新しい手法をたくさん作っておられます.経験が浅いうちは全体的に力が足りず,先生のおっしゃっていることをよく理解できないし実現することもできないのですが,各論として必要で真っ当なことを的確に見抜いておられるので(経験値がたまってくると)あの時はこういう意図でコメントされていたのかと分かるようになります.が当時はうまく研究を進められなかったし,論文もかけなかったので,大変な手間をおかけしたように思います. 博論は主査が下平先生,副査が鹿島久嗣先生と田中利幸先生で,副査は色々と対照的なお二人でしたが,今思うとこのお二人の前でよくあんな博論ディフェンスをやったものだと恐ろしくなります. 特に田中先生には沢山のコメントをいただいて,数学の技術的なところや研究への向き合い方について学ばせていただきました.
鹿島研は建物も違えば(当時は)コースなども別だったので大きな交流はなかったものの,なにかと縁のある知り合いは居て, 例えば 竹内孝さん, 谷本啓さん, 林勝悟さんは最近の人工知能学会で再会しました.あまり大きな交流はなかったものの,佐藤竜馬さんとは私の学生時代(つまり彼が学部生か修士に入ったばかりのころ)何故か一度だけ食事をご一緒する機会があったり,ビッグラボが近所にあると凄い人との交流も増えて良いです.たしか帰りの電車が一緒でした…. 理研AIPに入っていたこともあり,当時存在して下平先生がリーダーをされていた数理統計学チームでは 岩田具治さんや横井祥さん,寺田吉壱さんと同じチームでした.とても良い経験でした.そのあと数理統計学チームが解散したので, 山田誠先生の高次元統計モデリングチームに入れていただいたり,いまは清水昌平先生の因果推論チームにお邪魔させていただいています. 学位をとるまでのしばらくの間は理研AIPの京都オフィスで勤務していて,後に統数研で同僚となるTam Leさんや滋賀大に移られたファムさん,岡大に移られた大林一平さんと同室でした.
私の卒業と入れ替わる形で 中山優吾さんが下平研の助教として, 本田淳也さんが准教授として着任され,本田先生の博士学生として在籍しておられた土屋平さんはいま東大で助教をされているそうです.中山さんはそのあと統数研にも遊びに来られてお話をする機会があり,企業の研究者になられました. 現在,下平研の後輩にあたる博士学生は山際宏明さん, 大山百々勢さん,Zhu Yihuaさんです.私が統数研に移るのと入れ替わりで入られたこと, また山際さんと大山さんは自然言語処理を研究されていて,Zhuさんは機械学習側からナレッジグラフなどを主に研究されているので統計学との接点はあまりないかもしれませんが,各分野での活躍を期待しています.
6.統計数理研究所助教になってから
博士号を取得したあとは助教として統計数理研究所に就職しました. 統数研ではまず,統計思考院という部署に配置されました.今泉允聡さんなどが以前おられたポストです. 入所した2020年10月は新型コロナウイルスにおける外出自粛の真っ最中で,対面での歓迎会などはできず,オンラインでの自己紹介となりました. 上司は思考院の院長だった川崎能典先生と,途中で院長を交代された栗木哲先生で,研究の打ち合わせなどは特になかったものの,事務的に大変いろいろとお世話になりました. 思考院には特命教授として清水邦夫先生と池森俊文先生,柏木宣久先生がおられて共同研究スタートアップや統計相談などでご一緒させていただきました. 統数研で一番インパクトがあるのはやはり田邊國士先生で,赤池先生時代の統数研の教員はこんな雰囲気だったのだろうという独自の哲学感をお持ちです.思考院に席をお持ちでお昼ご飯をご一緒することも多く,統計に対する視点という意味では大きな影響を受けたように思います. 藤澤洋徳先生は統計基盤数理研究系の主幹をしておられて,あらゆることでお世話になっています.研究に色々とコメントをくださるので,大変参考になりますしモチベーションが上がります.また出張などを含めたあらゆる事務的な手続きにおいて思考院事務の篠崎さん・掛村さんには大変お世話になっています.
私が統計思考院に入ったのは2020年10月で,当時ほぼ同時期に思考院に入られたのが天文学者の服部公平さんと白崎正人さんです.お二人とも天文台と統数研のクロスポストの形で助教として入所されていて,メインのオフィスが統数研側なので,お昼ご飯などでよくご一緒します.服部さんとは論文も書きました.彼らは統計学が専門ではないものの,とても高いレベルで解析手法や機械学習技術などを運用しておられて,日々強い刺激を受けています.学生時代に阪大で色々教えていただいた鎌谷研吾先生が同時期に統数研に移ってこられて,今度は同僚として日野英逸先生のアレンジで雑談会などをしたのも今では良い思い出です. 思考院の助教として私の後に入られた湯浅良太さんは専門が統計学の助教として心理的な距離が近いので,業務などでもたびたびお世話になっています. 最終的に私が統数研で一番長く時間を過ごしたのは矢野恵佑さんで,もともと面識があり共同研究の話が部分的に持ち上がっていたなどはあったものの,入所して初めていろいろと話すようになりました.年齢が近いことと研究の志向が似ているので,出張の日を除けばほとんど毎日話をしているような気がします.すでに共著論文を2本書きました(共変量デザインの漸近的な影響,および過剰パラメータモデルでのWAIC)し,今でも様々なプロジェクトで一緒になります.
矢野さんとご一緒させていただいているプロジェクトの一つに,当時統計思考院で特任助教をしておられ,若くして亡くなられた菊地和平さんの立ち上げられた核融合研究所との戦略プロジェクトがあります.核融合研究所の横山雅之先生はぜひ統計学的な手法を核融合プラズマ研究に取り入れたいとの強い思いをお持ちで,現在では横山先生と統計数理研究所の三分一史和先生が主導される形でプロジェクトが進んでいます.参加者は沢山おられますが,統数研側からは田中未来さん,矢野さん,今は一橋SDSに移られた本武陽一さんなどが主に集会などに参加しておられます. 核融合サイドからは主に京都大学の村上定義先生と森下侑哉先生,日本大学の佐々木真先生,核融合研究所の釼持尚輝先生などが参加しておられ,他にも多数の研究者が参加しておられます.私は統計手法の研究やせいぜいが機械学習分野の狭い世界で生きてきたので物理的な直感が湧かず,皆さんが何を議論されているのか理解しようと努めるだけでも精いっぱいではあるのですが,今後統計手法の側から何か面白いアプローチができればと思っています.戦略プロジェクトに参加されている先生方は特に多産な方が多く,純粋な思考の速さや立ち振る舞いなど学ぶべきところが多いです.
上述の天文・核融合プラズマ分野との共同研究はとても楽しく,また私も学ぶことばかりではありますが,私の本職はやはり統計手法研究で,最近は統計モデルにおける特異性の扱いに興味を持っています.矢野さんと書いた過剰パラメータモデルでのWAICに関する論文はこの興味の一端で執筆したものです.WAICを提案されてこの分野をリードしておられる渡辺澄夫先生が最近書かれたレビュー論文にも引用していただいて,とても嬉しかったです.WAIC周りのトピックでは理研AIPで幅広く活躍されている幡谷龍一郎さんが興味を持ってくださっていて,何かご一緒できればと思っています. また特異モデルの周りでは,統数研の関係で,特異点論をやっておられる長崎大の加葉田雄太朗さんや計算機代数をされている九大の深作亮也さんと知り合う機会があり,何かできればと思っています. 特に阪大時代に助教をされていた廣瀬慧先生が加葉田さん深作さんと書かれた Fukasaku, Hirose, Kabata, Teramoto論文 は古典的ながら進展させるのが難しかった問題に誰も考えなかった方向から新風を吹き込んだ素晴らしい結果だと思っていて,私も是非何かこういうことをやりたいと思っています.HPCまわりでも, 横田理央先生のところで学位を取られた大友広幸さんにご紹介いただいて,並列計算に関するSWoPPや若手の会など参加してみてはいるのですが,このあたりの方向性を統計と融和させるのは急務と感じていながら,実際とても難しい気はしています.何か出来ればとは思っています.
色々書くと長くなってしまいましたが,最近も活躍されている方がたくさんおられて,日々いろいろと勉強させていただいています. 定期的な集まりでいえば, 唐木田亮さん, 林浩平さん, 松田孟留さん, 今泉允聡さん, 原聡さん, 小西卓哉さん, 横井祥さんという とても豪華で恐れ多いメンバーとの論文読み会があり,このあたりの人たちが最近どこに興味を持っているのかを知れるだけでも貴重な機会となっています. 大久保祐作さんは岡山大学の講師になられる前に統数研の特任研究員をしておられて,もともと生物系と伺っていますが統計学やその哲学的な部分に造詣の深い方です.雑談させていただいたりしています. 2023年12月末にインドで開催された3研究所合同ワークショップでは 所長の椿広計先生, 副所長の川崎先生, および 二宮嘉行先生, 加藤昇吾先生, 持橋大地先生, 栗木先生,鎌谷先生,矢野さんらとインドでの交流を楽しんできました. 特にインド最終日に残った栗木先生,二宮先生,矢野さんと私,およびホスピタリティにあふれた現地のAnil Ghoshでローカルな船に乗ってインドを体感したのはとても印象に残っています. ほかにも,総研大の卒業生などでは福水健次先生のところで学位を取られた豊田祥史さんは助教として最近九大に移動されました.数学を背景に,独特な視点から何か面白いアイデアを出していただければと期待しています.日野英逸先生のところで学位を取られた川島貴大さんは多産な方で,企業での研究者となられました. 最近学位を取り統計数理研究所に入られた柳下翔太郎さんは最適化と統計にまたがる広い視野を持っていて,統計を勉強するだけでは思いつかないような成果を出していただけると嬉しいです. ほかにも紹介しきれないほどたくさんの優秀な研究者がおられて,また総研大にも優秀な学生がたくさんいるので,是非面白い成果をたくさん出してほしいです. とても優秀な先輩方や後輩たちを見ながら,私も統計だけ勉強していては思いつかない何かを見つけたいなぁと常々思っているものの,言うは易し行うは難しを実感しています.とはいえ何もやらなければ何も生まれないので,地道に頑張ろうと思う次第です.